牧師さんのノート04: 「盲導犬が書いた手紙?」
私は矢板ホーリネス教会の牧師、田中敏信です。
今回は、「盲導犬」について書きます。と思っていた時・・、にです。
「そういえば、1頭目の盲導犬と暮らしていた時に、なにか書いたなあ・」
と思い出しました。
パソコンのハードディスクの中を探してみると、次のような「手紙」がありました。私の1頭目の盲導犬「フェリス」が、どなたかに出した手紙。私が代筆したんですね。
「うっそだあ。いくら盲導犬でも・・」とおっしゃる方がおられますか。
そうですねえ。なんといっても盲導犬は優秀ですからねえ(ニコニコ)
みなさんこんにちは。わたしの名前は、『フェリス』。ラブラドールレトリバーという種類の女の子です。
今5才、宇都宮で生れて宇都宮で育ち、盲導犬になるためのお勉強も、宇都宮の盲導犬センターでしました。お仕事を始めて、4年目になりました。
お父さんとお母さんは、イギリスから来ました。目の見えない人たちのお手伝いをする盲導犬を、たくさん産んで下さいって、たのまれたみたいです。わたしは、三匹姉妹で生れました。みんな、盲導犬になったので、お父さんもお母さんも、ほっとしているかもね。
わたしは、生れてから50日目に、お父さんとお母さんをはなれて、人間のお父さんとお母さん(パピーウオーカー)の所に行きました。家の中でくらすための、マナーを教えてもらうためなんです。ほおんと、盲導犬って、家の中でくらすんですから、きをつけなきゃいけないことって、たくさんあるんです。ごみ箱を「くんくん」しちゃいけないし、おふとんの上を歩いちゃいけないし…。でも、人間って、とってもやさしいこと、よくわかりました。
一才を過ぎて、盲導犬センターに行きました。ここで出会ったお父さん(訓練師)は、とってもかっこよくて、やさしい人でした。目の見えない人をゆうどうして歩く勉強、とってもむずかしかったの。でも、はげましたりなぐさめたりして、卒業出来るようにしてくれたんです。
一番むずかしかったことですって!「不服従の訓練」でした。「言われたとおりに、しない」という練習です。
いつもだったら、お父さんに言われたことは、そのとおりにします。「Go(前に進め)」と言われたら、前に進みますね。でも、車が来ていたりすると、あぶないでしょ。お父さんに言われたようにしないで、止まったままでいるんです。車が通り過ぎたら、左右をよく見てから、前に進みます。あったま!いいでしょう。これ、盲導犬センターで教えてもらったんです。
いよいよ、目の見えない人のお手伝いをするのが決まったのは、2才を過ぎた時でした。今のお父さんが、盲導犬センターにやって来て、一緒に歩く練習をしたんです。宇都宮市内で、4週間。オリオン通りや県庁の前、JRの宇都宮駅も。練習で歩きました。
今は、お父さんと一緒に、矢板に住んでいます。家族は、お母さんと、4才と2才の女の子、わたしを入れて5人家族です。
一番楽しいのは、お父さんとお出かけすること。市内は、どこでも一緒に歩いて行きます。お父さんは「教会の牧師」というお仕事をしていて、時々遠くに出かけます。この前は東京、その前は神戸、その前は広島に、お父さんと二人で行きました。新幹線に乗って。また家族みんなで、飛行機に乗って、北海道に行ったことだってあるんですよ。いつでもお父さんと一緒にいて、どこへでも連れていってもらえる、これが一番幸せ!。
そうそう。時々言われるんです。「赤信号がわかるんですね!」、「町の中を全部おぼえているんでしょ」。でも、本当は違うんです。赤信号なのか青信号なのか、わたしには色はわかりません。お父さんが、車や人の動きを耳で聞き分けて、進むのか止まるのかを教えてくれます。分かれ道に来たら、立ち止まってわたしが知らせます。お父さんは、町の中の地図をおぼえていて、右の道か左の道かを決めるんです。お父さんがまちがえて、迷子になったこともあるんです(しっかりしてもらわなきゃ!)。ですから、わたしがしているのは、お父さんがあぶなくないように、歩く時のゆうどう。お父さんは、考えて決める。そう、自分の得意なところを受け持って歩いているわけ!
おしまいに、町の中を歩いていて、ちょっと困ること。知らない人に、優しい声をかけられたり、優しい目でじいっと見られたりするのって、ちょっと困るんです。優しい人に出会う。本当はうれしいんです。でもお仕事をしている時でしょ。しっぽをふってお礼をいおうとして、車が来ているのがわからなかった…。そんなことになったらたあいへん。優しい手なんかのびて来て「いいこ、いいこ」ってしてもらったら、だいじなお仕事、わすれてしまいます。お気もちは、うれしいんですけど。ごめんなさい。
矢板ホーリネス教会内 田中フェリス (代筆 父 田中敏信)
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